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027:クリボー狂騒曲

「僕の『すごい人』、水晶玉を持っていたことはあるかい?」

1998年1月29日、冒頭の一節で始まるアルバム「Crystal Ball」(通称クリボー)が発売されました。自身のキャリア20周年の節目であり、レーベルを介さず直接リスナーに音源を届けるという彼の挑戦のマイルストンでもありました。発売日ということでプリンス・エステートがやけに最近フィーチャーしているので、当時の思い出を書き連ねたいと思います。もうだいぶ記憶が薄れていますが、これ以上薄れる前に記録しておく狙いもあります。

プリンスの先見の明

まず、発売に至る経緯のおさらいから。プリンスは90年代初頭からアーティストの権利を主張してワーナーと争いました。自身の名前を発音不能な記号Tシャツに変えて、契約がまだ残っているワーナーを尻目に独自の活動を行います。1996年の「Emancipation」は1枚限りの契約でEMIからリリース、同じタイミングで自身のWebサイト"TheDawn.com"も立ち上げました。Webサイトはその後も形を変えながら継続し、ついには「Crystal Ball」をWebサイト(または専用電話回線)からの注文で直販するという、当時としては革新的なシステムを採用するに至ります。

一方、そのころ日本では…。

当時私はピチピチの大学生。って、そんな情報はどうでもいいですね。
クリボーがネット販売された1998年がどういう年だったかというと、日本におけるインターネット普及率がたったの11%。電話回線を使うダイヤルアップがまだ健在で速くてもISDNという、ブロードバンド以前の時代でした。(一般的なブロードバンドの速度はISDNの180倍ほど)
先進国米国のインターネットの状況とまったく異なり貧弱な回線で四苦八苦。プリンス・ファンはまずその点で苦労していたように記憶しています。余談ですが、私は「Emancipation」ブックレットに記載されていたWebサイト(前述の"TheDawn.com")にアクセスしたくてインターネットを始めました。ただ、すぐには開始できなかったので、ようやく繋がったときには同サイトは既に閉鎖しており落胆したのを覚えています。

Welcome 2 The Dawn

はじめてのネットショッピング、しかも海外

"TheDawn.com"から"1-800 NEWFUNK"を経て立ち上げられたサイト"love4oneanother.com"で「Crystal Ball」は発売されました。 電話注文も可能でしたが、英語のハードルは高いため、私はインターネットからの注文を選択。

L4OA

しかし、前述のとおり日本はまだインターネット黎明期。当時はまだネットショッピングはメジャーなものではなかったため、安全性への強い懸念がありました。しかも海外です。
初めてのネットショップが海外というのは試練でしたが、プリンスへの想い一筋で注文に至ります。当時は殿下マニアという超有名サイトがあり、そこのML(メーリング・リスト)に入っていたおかげで私もこのあたりの情報をゲットすることができました。MLで情報を出してくれた方の中には英語ペラペラな人やパソコン通信などをやっていた強者が多かったので、とても助かりました。教えていただいた諸先輩方には、いまだに感謝しています。

杜撰な対応

注文からどれぐらい待ったでしょうか?正確には覚えていませんが、かなーり待たされた気がします。ただでさえ不安な海外へのネット注文ですので殊更長く感じたんだと思います。そうこうしているうちに「届かなかった」「おまけが入ってなかった」「2つ届いた」といった、あり得ない状況がMLで続々と報告されました。そう、相手はプリンスです。そして我々はプリンス・ファン(しかも当時発注していたのは筋金入りばかり)。つれない仕打ちには慣れっこです。吸い込まれたお金はお布施と思うのが正解。そう自分に言い聞かせて、そっと覚悟しました。

それだけに無事に届いたときは感無量でした。ちゃっちい個性的なジュエル・ケースに収納された5枚のCD。そしてオマケとして「The War」のカセット・テープとTシャツも付属されていました。オマケは確か発送における不手際のお詫びの品として同梱されたように思いますが、もはや記憶が曖昧です。

クリスタル・ボール

水晶玉を手に入れた

ジュエル・ケースは変則的なプラスチックのケースで、無造作にCDが5枚格納されています。構成は「Crystal Ball」3枚、「The Truth」1枚、「Kamasutra」1枚です。御覧の通り、CDは固定されておらずガタガタする状態。丸いのでうっかりどこかに立てかけたらコロコロ転がって破損、なんて悲惨な話があったとかなかったとか。

クリスタル・ボール

ジャケットもライナーも一切無し。その代わり特設サイトで全曲の歌詞が公開されました。同サイトではジャケットの絵もプリント・アウトできるようになっており、製造にお金をかけずセルフ・サービスで提供した形です。特設サイトはいまだに残っており見ることができます。http://www.crystalballcd.com/
今見ると何てことない(環境によってはレイアウト崩れあり)ですが、当時はかなり先進的で、様々なアイデアとギミックに感動したものです。

クリスタル・ボール

オマケの「The War」はカセットテープのマテリアル。元々Web配信された音源で、商業的な意図でなければ1ドルの寄付でコピーして配布して良いよという太っ腹な音源でした。

The War

いろんなバージョン

クリボーは当初直販のみの限定販売でしたが、後に「Kamasutra」が抜かれた4枚入りCDが市販されました。そちらはジュエル・ケースではなく普通のCDケースでした。私はもちろんそちらも購入。ジュエル・ケースは出し入れに気を遣い過ぎるので…。その後、日本クラウン(!)から日本盤も限定発売されます。

クリスタル・ボール

北米エディションでは4枚組のジュエル・ケース盤もあって、そちらはCDケース版にも付属のブックレットが付いているようです。(私はこれは持ってません)

クリスタル・ボール

手に入れたものと失ったもの

最後にTシャツについて。
Tシャツはあくまでオマケなのでお任せチョイス。「どんな格好良いのが届くのだろう」とワクワクしていた私のところに届いたものをご紹介します。サイズはブカブカ。人生で初めてXLサイズの存在を知るきっかけになりました。テロテロの白生地に文字プリントのみ。デザインは「これ自分でも作れるな」と思えるものでした。表には"Eye Like Funky Music!"という文字が書いてあり、背中にはこのメッセージです。

Tシャツ

ご丁寧にビックリマークまで付けて"Eye Love Safe Sex!"と書いてあります。"Safe"はハートマークの中に小さく書かれてあるので、パッと見は"Eye Love Sex!" になってしまいます。いや、普通の人は目の記号を一人称の"I"と読み替えることはできないので、「目、ハート、SEX!」という意味不明な変態宣言かもしれません。
「着れるかこんなもん!」と言いつつ、結構着てました。我ながらファンの鑑。
ちなみに上の画像は拾い物で、現物はとうの昔に捨てました。画像をクリックすると、誰かが出品したシミ付きの現物Tシャツが購入できます。物好きな方はぜひ。ということで、この鉄板Tシャツを本コラムのオチに代えさせていただきます。

2021/1/31

近日更新予定 ⇒



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